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三春物語85番 「青石マタギの災難」




三春城下最北部の青石という村に伝わる昔話です。
ある年の冬のこと。
 一人のマタギが、隣国の岩代で雪山のなかで獲物をおっかけているうちに、すっかり日が暮れてしまいました。
 さてどうしたもんだろうと、辺りをみまわすと、それほど遠くないところに、ポツンと一つ明かりがみえました。
「これは、天の助けだ」
 マタギは、明かりのほうへと歩きだしました。
 雪の中をころがったり、尻餅をついたりして、やっと辿り着いてみますと、それは炭焼き小屋でした。
 ドンドンドン
 マタギが小屋の戸をたたくと、百姓が顔をだしてきました。
「おら、青石からこの山さきた、マタギだども、山ん中でこの大雪だ、家さ、帰ろうにもかえられねえ。なんとか一晩、どこぞの片隅でええから、泊まらしてくれねえべか」
 マタギが、すがるようにして頼むと。
「ああ、ええとも、ええとも。まんずこんなあばら家だが、入ってけれ」
 百姓はこころよく、マタギをむかえ入れて、炉端へすわらせました。
 マタギがホッとしていると、百姓がこんなことをいいだします。
「実は、一つ頼みてえことがあるだ。こんな大雪だども、おら、なんとしても下の村さおりていかねばなんねえ用事があってな。ちょうどいいぐあいに、おめえさまがきてくれた。なんともすまんだども、じきにかえってくっから、ちょっとのあいだ留守をたのまれてけれ」
 マタギは、小屋に入れてもらったお礼にと、
「ああ、ええとも、ええとも。おやすいご用だ。安心していってけれや」
と、留守をひきうけました。
「それをきいて大だすかりした。ただ、火をもやすことだけは、忘れねえようにしてけれや。そこのすみっこにたきぎがなんぼでもあるから、どんどん燃やしててけれ」
と、いいのこして、百姓は大雪のなかをいそぎ足ででていきました。
 マタギは炉端にポツンと独りすわって、たきぎをくべているうちに、体も暖まってきたし、疲れもでてきたので、いつのまにかウトウトと、眠ってしまいました。
 ハッと気がつくと、火が下火になっています。
 小屋の隅のほうからたきぎをもってきて、くべながら、
「それにしてもお百姓の帰りは遅えなあ。もっとも、この大雪でこの暗さじゃあ、きっと難儀しているんだべ」
 などとかんがえながら、またウトウトと、眠ってしまいました。
 どのくらいたったのか、ゾクゾクと寒さをおぼえて目をさましてみると、もうすっかり火が消えてしまっています。
「こらいかん、火がきえたら、オオカミのやつがやってくるぞ」
と、たちあがって、たきぎをとりにいこうとすると、小屋の片隅にたてかけてある屏風の陰で、なにやらものの動くけはいがしました。
「はて、この小屋には、今夜はおらのほかには、だれもおらんはずじゃが」
 するとこんどは、ズリッズリッと音がしました。
 またぎがこわごわそっちのほうをみてみると、屏風のむこうに、女の人の首がみえます。
「わあっ、ばけもんだ。た、た、たっ、助けてくれ!」
 思わず叫ぶと、そこらにあった杉の葉やたきぎやらを、かまわずなげこんで、大いそぎで火をつけました。
 火がパッと、あかるくもえあがります。
 すると、なにやらバタバタとにげていくような音がして、やがて静かになりましたが、またぎはもう、生きたここちがしません。
 ガタガタとふるえながら、
「はやく夜が明けてけれ、はやくお百姓帰ってきてくれ」
と、同じことを唱えるばかりです。
 ようやく夜が明けてきました。
 またぎがホッとしたところへ、百姓が村人を四人ばかりつれてかえってきました。
「ああ、すまねがった。とうとう夜が明けちまったが、夕んべはよく眠れたべか」
「いんや、夕んべは、えらいおっかねえめにあった。とても眠れるどこのさわぎじゃねえ」
と、昨夜おこったことを、すっかり百姓に話して聞かせたのです。
 すると百姓は、あらたまった顔になって、
「なんともすまねがった。じつは女房が、急に体のあんべえ悪くなってな、死んでしまったんだ。おめえさまのくる少し前のこんだった。それで、村さ下りて人をよばってこようとおもったども、留守のあいだに火がきえてしまえば、オオカミがやってきて、女房を食ってしまう。はて、どうしたもんだろうと思案しておったところへ、おめえさまがやってきてくれた。それで、おめえさまには悪いとおもったども、黙って留守番を頼んで、でていったっちゅうわけだ。夜中に火がきえたとき、オオカミのやつが、女房ばつかまえてでていこうとしたのだべえ。おめえさまが火をもしてくれたおかげで、助かっただ。怖いめばあわして、面目次第もねえ。これこのとおり謝るで」
と、またぎに頭をさげて謝りました。
 昨夜は、化け物のほうにすっかり肝をつぶしてしまって、オオカミには気がつきませんでしたが、そういわれてあたりをみまわすと、たしかに小屋のゆかに、けものの足あとがいくつかついています。
 マタギは山のなかでなん十年とくらしてきましたが、こんな恐ろしいめにあったのは、あとにもさきにも、これがはじめてだったということです。



| ryuichi | 21:11 | comments (0) | trackback (x) | 旧沢石村::青石 |
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